最近の論文から、カラギーナンの発がん性がますます疑わしくなりました
Bacteria of the human gut microbiome catabolize red seaweed glycans with carbohydrate-active enzyme upclates from extrinsic microbes
ヒトの腸内細菌は、紅藻類の多糖類グリカンを外来微生物由来の酵素で分解する
Jan-Hendrik Hehemann ビクトリア大学 カナダ PNAS November 27.2012 vol 109 no.48
私達は、腸内細菌バクテロイデスプレベイウス(Bacteroides plebeius)のPUL遺伝子群を同定した。この遺伝子群は、炭水化物を分解するものだが、紅藻類の炭水化物を分解する海洋バクテリアから遺伝子伝達されて、獲得された遺伝子群だと思われる。アガラーゼ(寒天多糖類を分解する酵素)が日本人の腸内細菌から、ポルフィラナーゼ(のりの多糖類を分解する酵素)がスペイン人の腸内細菌から、アルギン酸リアーゼ(昆布などの多糖類を分解する酵素)がアメリカ人の腸内細菌からなど見つかり、現代の食事に含まれるこれらの新しい海藻由来の炭水化物に腸内細菌が適応(酵素を新しく獲得)した可能性がある。 今回の研究でこのバクテロイデスプレベイウスが海藻からの多糖類をエサに増殖することを示した。 さらに、以前の研究では否定されていた、カラギーナン上で生育できるバクテロイデス テタイオミクロンVPI-3731株を見つけた。私達の研究は紅藻類のガラクタンを分解できる腸内細菌がもしかしたら健康に影響を与える可能性があり、ヒト、腸内細菌の進化の可塑性についての理解を修正する必要がある。 カラギーナンが分解されてできる低分子量カラギーナンには、動物には潰瘍性腸炎を起こすので、健康への懸念がある。 バクテロイデス テタイオミクロン VPI-3731株は、カラギーナン上で強烈に増殖するので、カラギーナン分解酵素を持っているはずである。これらの分解酵素を調べることと、この株がヒト腸内にいるのかどうかと、実際に毒性のあるカラギーナン分解産物を作るのかが将来の研究課題である。
ヒトが進化の過程で食事の多様性がなくなり、腸内細菌を多く失ってきたことを示す論文
ヒト進化の間に腸内細菌叢(そう)が急激変化している
Andrew H,moeller. エール大学 アメリカ PNmber 18.2014.vol.111 no.46 16431-16435
【要旨】
ヒトは何兆もの微生物が住んでいる生態系といえるものですが、この微生物叢の進化の歴史(変化の歴史)はアフリカに住んでいる類人猿類の腸内細菌の微生物叢について分かっていないことが障害になっている。私たちは何百匹ものチンパンジー、ボノボ、ゴリラの腸内細菌の遺伝子(リボソーム遺伝子V4領域)配列を解読し、現代のヒトの腸内細菌叢が分かれた(変化してきた)のを予想した。
アフリカの類人猿類の間の腸内細菌叢の変化は遅く、時間(分岐してから)に比例していた。しかし、ヒト腸内細菌叢はそれら進化上の祖先から加速的に変化している。野生の類人猿類に比べ、ヒト腸内細菌叢は多様性を失っており(種類が少ない)動物食に特化している。
個々の類人猿はより多くの門、網、目、科、属、種の細菌をヒトに比べ持っている。
これらの結果は、ヒトがチンパンジーから分かれて以来、腸内細菌を多く失ってきたことを示している。
【結果】
アメリカ人317人、マラウイの田舎に住んでいる人114人、アマゾンの熱帯雨林に住み原始的な生活をしている人99人(ベネズエラとして表示)、タンザニアの野生チンパンジー160匹、コンゴ民主共和国に住む野生ボノボ70匹、カメルーンの野生ゴリラ186匹などの便中の微生物のリボソーム遺伝子を解読して、腸内細菌の種類数を推定した。
世代を越えて腸内細菌が減る原因のひとつ、食習慣について示した論文
Diet-induced extinctions in the gut microbiota compound over generations
世代を越して、食事によって腸内細菌が絶滅しつつある
Sonnenburg.ED. スタンフォード大学 アメリカ Nature 2016 Jan 14,529
腸には、何兆個もの微生物が住み着き、免疫、代謝など人に影響を及ぼしている。
伝統的な生活(狩猟採取民族)をしている人達に比べて、現代的な生活をしている人達の腸内細菌の種類が少ないことは、何が原因でこの変化をもたらしているかの疑問を投げかけている。
Microbiota-accessible carbohydrates(MAC)とは、人が消化できずに微生物のエサになる炭水化物で食物繊維として含まれている物で、腸内の微生物叢を形作るのに重要ですが、現代の高脂肪、単一な炭水化物、低食物繊維の食事ではかなり減少する。
ヒト腸内微生物を持ったマウスにこの低MAC食を与えた時、このマウスの腸内細菌は一世代では元に戻りうる変化に留まります。
しかし、数世代経つと、この低MAC食は腸内細菌の多様性が連続的に進行し、MAC食を導入しても元に戻らなくなります。
Parental dietary fat intake alter offspring microbiome and immunity
親の食事中の脂肪が子供の腸内細菌叢を変え、免疫も変える
Ian A.Myles 国立衛生研究所 アメリカ Journal Immunol 2013:191:3200-3209
ヒトで炎症に関わる病気が現代で増えているメカニズムにはまだ不明なところがある。 食事に含まれる脂肪が免疫に影響する。 以前の論文で、「微生物への影響を通じて、高脂肪食が直接的に腸内細菌叢に影響し、炎症を生じさせることがある。そして、子供にもいくらかの影響があり、親の妊娠中、授乳中の食事の脂肪が子供の免疫に影響する」という仮説を検証する。
②の子供達は肥満でも糖尿病でもなかったが、感染、自己免疫アレルギー感作で結果が良くなかった。具体的には
大腸菌を感染させた時に、生存率が低い→ 感染
自己免疫疾患モデル(実験的自己免疫性脳脊髄炎)で生存率が低い→ 自己免疫
ピーナッツ・タンパクによるアナフィラキシーショックによる体温低下が大きい→アレルギー
これらの悪影響は子供の腸内細菌叢の変化に関連している。これらの結果は親の脂肪摂取が子供の免疫に影響を与える。いわば脂肪の遺産ともいうべき物を残している。そして、それは腸内細菌叢が受け継がれることで起きているかもしれない。また、①と②の子供のネズミを同居させた場合、ネズミはフンを食べる性質があるため、腸内細菌叢が同じになるからなのか、①と②の違いがなくなります。
ここで高脂肪食といっている食事は一般的な洋風の食事で、低脂肪食と比べると、
となっており、飽和脂肪酸(パーム油)の割合が高い。
解説
脂肪をたくさん摂ると、肥ることで悪影響がでることは事実ですが、太らなくても、脂肪の種類によっては、影響が違うことを示している論文です。日本人には痩せているヒトでも糖尿病になる人が多いこともあり、太っていることの他に、脂肪、炭水化物の種類の違いが影響しています。
腸内細菌の種類が少ないことが、アレルギーに関係しているかもしれないということを示した論文
Allergy associations with the adult fecal microbiota Analysis of the American Gut Project
成人の便中微生物叢の(貧しさ)がアレルギーに関係している アメリカ腸内細菌プロジェクトの分析から
Xing Hua 国立衛生研究所 アメリカ E Bio Medicine 3(2016)172-179
腸内細菌叢の変化がアレルギーなどに関係しているかもしれない。
アメリカ腸内細菌プロジェクトの、便中、16SrRNA(微生物の種類が分かる)のデータを使った。便中微生物の豊富さ(種類)と割合をアレルギー(ピーナッツ、ナッツ、貝、薬、ハチ、喘息、花粉、湿疹)を持っている人と持っていない人で比べた。
微生物の種数で3分割し(多い人、中間、少ない人)、豊富な人に対して少ない人がどのくらいの倍率でアレルギーを持っているかを計算した。
結果
アレルギーを持っている割合は(自己申告)81.5%、
ピーナッツ2.5%、花粉症40.5%
便中微生物の種類はアレルギーを持っている人全体では、かなり少なかった。(P=10-9乗)
微生物の種数で3分割して比べると、
花粉症 1.7倍
薬 1.8倍
ピーナッツ 7.8倍
多い人に比べ少ない人がこんなに高い割合でアレルギーを持っている。
そして、これらのアレルギーを持つ人たちは、持たない人たちと微生物の割合も異なっていた。
(ちがう種類になっている。7~9種類異なっている。)
Microplastic Pollution in Table Salts from China Environ. Sci. Technol. 2015, 49, 13622−13627
中国で、市販されている食塩に含まれるマイクロプラスチックを分析した論文
市販の様々な塩を溶かし、フィルターろ過したものを、顕微鏡でマイクロプラスチックを数えた結果
海水から作った塩 550~681個/1kg
湖水から作った塩 43−364個/1kg
岩塩から作った塩 7−204個/1kg
海水から作った全ての塩に、1kgあたり500個以上のマイクロプラスチックが含まれていました。また、半数以上が0.2mm以下のサイズで、形はほとんどが不定形(≒砕けた後の小さな破片)か繊維状でした。
プラスチックの種類を分析した結果
海水から作った塩は、PET(27.3%)、ポリエチレン(20.5%)、セロファン(18.2%)、ポリエステル(13.6%)。顕微鏡で、マイクロプラスチックを判断したものの中にも、プラスチックではないものも含まれていたが、ほとんどがプラスチックである事が確認できた。
public health and economic consequences of methy mercury toxicity to the developiug brain
発達中の脳に対するメチル水銀毒性が公 衆の健康と経済的な損失をもたらしている
lennardo trasande ハーバード大学小児医学environmental health perspectives volume113 number5 may 2005
メチル水銀は、発達中の神経に対する毒物である。曝露は主に水銀に汚染された海産物を妊婦が食べることによって生じる。水銀汚染は人為的なものが70%、天然由来のものが30%である。1990年代を通して、EPA(アメリカ環境保護庁)は、人為的な汚染、とくに火力発電所由来の水銀の放出を減らし続けてきた。しかし、最近になってEPAは、コストが高いことを理由に、その流れを抑制することを提案した。
私たちは、アメリカ国内の火力発電所からの、放出を減らすコストについて考えるために、火力発電所由来のメチル水銀の経済的コストを試算してみた。
子どもの血中及び臍帯血中の水銀濃度を測定しているフェロー諸島(デンマーク)の研究によると、子どもの知能低下は臍帯血中(メチル水銀)濃度が5.8μg/L(ppb) から起きる。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の血中水銀データにあてはめてみると、アメリカ国内で、毎年31万6588から、63万7233人に知能低下が起こることになる。
知能低下は、その子ども達の生涯にわたって、生産量を減少させることになる。これが、メチル水銀の毒性のコストであり、毎年、8.7ビリオンドル(8700億円--1ドル、100円として)(範囲として2200億円~4兆3800億円)に値する。
このうち、1.3ビリオンドル(1300億円 範囲 100億円~6500億円)分が毎年のアメリカの火力発電所由来の水銀放出分である。
フェロー諸島前向き研究(コホート調査)
水銀濃度の測定結果:
臍帯血の水銀濃度 中央値 24.2(0.5~351)μg/L 250人が、40μg/L以上
母親の毛髪中の水銀濃度 平均 4.5(0.2~39.1)μg/g 130人が、10μg/L以上
7歳児調査
結 果:
成績の悪い4分の1の群の児の臍帯血の水銀濃度の分布を見ると, 注意力,言語,記憶,において,水銀濃度の高い児の割合が増加していた。 また,母親の毛髪水銀中水銀濃度が10ppmを超える児を除いて分析した結果も ほぼ同様であった。
研究が進むにつれて、より低い暴露での影響が 観察される事がある
しかし、日本は「平均値」で考えている。
また魚をもっと摂取するように推奨しているのに、
水銀の毒性を評価する上では現状を基準として判断している