食品安全情報:名古屋生活クラブ

HOME > 食品安全情報

ひどい大気汚染にみられる脳の炎症とアルツハイマー様の病理

論文で紹介します

Brain inflammation and Alzheimer’s-like pathology in individuals exposed to severe air pollution
ひどい大気汚染に曝されている人にみられる脳の炎症とアルツハイマー様の病理
LilianCalderon-Garciduenas 国立小児科研究所?(メキシコ) ノースカロライナ大学
Toxicologic pathology 32 650-658 2004

大気汚染は、オゾンの様なガスや粒子状物質(PM)や有機物などからできています。ひどい大気汚染にされされた犬は、慢性の炎症と、アルツハイマー様な病理を進行させており、脳が汚染により傷害を受けていることを示唆しています。

私達は、この様なひどい大気汚染のなかで住んでいる人達に脳の炎症が起こっているかどうか研究しました。シクロオキシゲナーゼ(炎症反応を起こしている酵素)と、B-アミロイドタンパク(アルツハイマー病の時、脳の神経の中に蓄積し、細胞を死なせるタンパク)の一部のAB42(アミノ酸42個分の断片)の蓄積を、メキシコ国内の大気汚染のひどい都市と、そうでない都市に住み、病気や事故でなくなられた方の脳を採取し、分析した。

結果

大気汚染のひどい都市(メキシコ市、モンテレー市、10人)に住んでいた人は、統計的に有意にシクロオキシゲナーゼの量が前頭皮質と海馬で高く、さらにAB42の蓄積も神経細胞と星状細胞で多かった。

さらに、臭球(匂いを感じる細胞)でもシクロオキシゲナーゼとAB42の蓄積が多かった。

これらの発見は、ひどい大気汚染が脳の炎症とAB42の蓄積につながっていることを、さらには、それらがアルツハイマー病の前兆である可能性を示唆している。

解説

大気汚染のひどいメキシコ市に住んでいる人達は、大人も子供も犬も呼吸器官の炎症、鼻の上皮細胞の破壊などが見られている。

顕微鏡で見ると、気管支にはマクロファージ(白血球の一種)がPM(大気汚染の粒子状物質…ナノ粒子 とっても小さい)を細胞内に取り込んで、集まっています。

メキシコ市の犬の場合、臭球(臭神経)の細胞が破壊されていることが分かっているので、人の場合も同様かもしれません。ナノ粒子(原子の大きさのレベル)の研究で臭神経を通過して、脳にナノ粒子が運ばれることが実証されており、大気汚染物質のPM(粒子状物資)もナノ粒子なので、その様に臭神経を通して、脳の中にPMが運ばれる事が炎症を開始させている1つの原因かもしれません。

この論文の怖いところは、大気汚染とアルツハイマー病の関連を、AB-42というアミロイドタンパクの一部分が実際に大気汚染の高い地域でたくさん蓄積しているのを見つけたところです。

この後の論文(2007年)では、大人だけでなく、子供でもAB-42の蓄積が起きていることを報告しています。ナノ粒子関連の論文をよむとマクロファージは異物(ナノ粒子)を細胞内に取り込んでいる事が多く報告されています。マクロファージは異物(ナノ粒子)を取り込むことによって、炎症反応を引き起こしている可能性があると思います。ナノ粒子の安全性は確立していません。ご注意を!!

シクロオキシゲナーゼとは

アラキドン酸(リノール酸) →→→→→ プロスタグランジン
  シクロオキシゲナーゼ  

シクロオキシゲナーゼは脂肪酸のアラキドン酸などを、生理効果を持つプロスタグランジンに変換する酵素です。プロスタグランジンは炎症などの作用も起こすので、シクロオキシゲナーゼが増えると、炎症が増加すると考えられます。

頭痛薬のアスピリン、インドメサシンは、シクロオキシゲナーゼの阻害薬

AB-42タンパクとは

アルツハイマー病の患者の脳細胞では、アミロイドタンパクと呼ばれるタンパクが蓄積しており、それによって、神経細胞が死ぬことがこの病気の原因だと考えられています。AB-42はこのアミロイドタンパクの一部分(42個分のアミノ酸がつながってできている分)で、これが脳細胞に蓄積しているので、アルツハイマー病の前兆ではないかと、著者は思っています。

(伊澤)

(2012/07/19 掲載)