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いつの間にか摂取しているヒ素のリスク

名古屋生活クラブの考え

いつの間にか摂取しているヒ素のリスク

1、ヒ素の概要

ヒ素といっても、色んな形があります。多くは硫ヒ鉄鉱などの鉱物として存在しています。単体としてのヒ素、無機ヒ素化合物、有機ヒ素化合物とに大きく分かれますが、特に危険性が高いのはヒ素、無機ヒ素化合物です。

ヒ素化合物の種類は3万種に到達していると推測されているほど多いのです。

用途:農薬、殺鼠剤、木材防腐剤、医薬品、家畜の飼料添加剤、顔料、半導体材料等(日本では農薬の登録は失効した)

2、ヒ素の摂取源

食べ物からの摂取でいうと、魚介類・海藻・穀物・野菜等。無機ヒ素に限ってみると、日本の場合海藻のヒジキが多い。カレイ、エビ、アジに含まれるヒ素も多いですが、無機ヒ素の割合はとても低いのです。(下表参照)

お米なども摂取源になります。(3-1に続く)

また、飲料水・大気中からもヒ素を摂取しています。海外ではヒ素を含む農薬も使用され、それによる食べ物への残留、土壌汚染、地下水汚染もあります。

3、ヒ素のリスク・リスク評価

3-1、食物中のヒ素の含有量(国のデータ)

乾燥ヒジキに平均で約0.11mg/g、最大で約0.154mg/g含まれる。(三菱化学安全研究所2007)1992年 塩見の発表では、乾燥ヒジキ1g中に0.0613mgのヒ素が含まれていた。そのうちの約60%が無機ヒ素であった。(表参照)

玄米中の総ヒ素(乾重量当り)0.118〜0.260mg/kgに対して、無機ヒ素は0.108〜0.227mg/kgで無機ヒ素の割合は 平均85.8%と高い(農林水産省 2006)。日本人の食事を見たときに、ヒ素の摂取で気になるのはこの2つです。

出典:海産生物に含まれる化学形・毒性・代謝(塩見1992)

3-2、日本の河川に含まれるヒ素

愛知県の地下水:愛知県西部ではヒ素が基準値0.01r/lを超えて検出されている。東三河でも基準値を超える地点が存在しており、これは鉱山由来と考えられた。(坂井田稔:愛知県における地下水中のヒ素の実態 平成15年度 愛知県環境調査センター研究発表会より抜粋)

岐阜県の地下水:養老町南東部地域内の地下水のうち、18地点において調査。18地点中12地点よりヒ素が検出された(検出限界0.005r/l)。このうち、8地点が環境基準値0.01r/lを超過していた。一番高いところで0.067r/lだった。(佐々木正人、原 信行、岡 正人:岐阜県下における砒素汚染地下水の水質特性事例 2009年 岐阜県保健環境研究所報 第17号より抜粋)

3-3、ヒ素の摂取量(国のデータ)

トータルダイエット調査(厚生労働省)によれば、日本における総ヒ素の1人当りの推定1日摂取量は 平成12〜16年度平均で0.176mgであった。(この数値には個人によってかなり大きなばらつきがあると 考えられる。高い人は1日に1mg近く摂取している人もいた。)摂取割合は、53.6%を魚介類から、 35.4%を野菜・海藻から、7.1%を米から摂取していた。他の国と比べると摂取量はアジア諸国が高いようだ。 JECFA(1988)のデータで、中国が0.21mg、韓国が0.32mg、ドイツが0.083mg、アメリカが0.01mg。 (平成20年度食品中に含まれるヒ素の食品影響評価に関する調査 平成21年3月 財団法人 国際医学情報センター より)

3-4、リスク評価

3-4-1、IARC(国際がん研究機関) (IARC1987;IARC2004)

IARCはヒ素および無機ヒ素に対し、発がん性を示すとし、グループ1(ヒトに対して発がん性を示す)と評価している。

3-4-2、WHO(世界保健機関)

1996年、水道水中の濃度のガイドラインを0.01mg/Lとした。この基準値を達成できない国も多いが、その場合はできるだけ低い濃度を保つように努力すべきであるとした。(2004年)

3-4-3、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門委員会)

1983年、暫定耐容週間摂取量(PTWI)の設定を試み、PTWIは0.015mg/kg/体重/週と設定した。しかし、魚由来の有機ヒ素の摂取量が0.05mg/kg/体重/日(1週間で0.35 mg/kg/体重/週)であることと、肺がんリスクを0.5%増加させる無機ヒ素量が0.003mg/kg/体重/日(=1週間で0.021 mg/kg/体重/週)であるというデータより、暫定耐容週間摂取量は適当ではないという協議に至っている。つまり、現在の摂取量がすでにリスクが考えられる範囲にあるということ。

3-4-4、EFSA(欧州食品安全機関)2010年

肺がんリスクを1%増加させる無機ヒ素量の範囲が0.0003mg/kg/体重/日〜0.008 mg/kg/体重/日(=1週間で0.0021 mg/kg/体重/週〜0.056 mg/kg/体重/週)であり、これを基準としている。しかし、米をたくさん食べるヨーロッパの人の無機ヒ素摂取量は0.007mg/kg/体重/週であり、海藻をたくさん食べる人では0.028mg/kg/体重/週であり、3歳以下の子どもでは0.0035〜0.019mg/kg/体重/週であることからリスクを軽減することが必要だと言っている。

3-4-5、北里大学による調査

14軒の家庭からひじき料理を提供してもらい、ひじきを食べる回数(月当り)についてアンケートをとった。

ほとんどの家庭で月に2〜3回の摂取だった。これを用いて1日の平均摂取量を推定すると6.5g/日(1.1〜14g/日の幅で、中央値は5.5g/日)だった。ひじき料理中の無機ヒ素濃度を測定すると、0.4〜2.8mg/kgだった。

この値から1日のひじき料理からの無機ヒ素の摂取量は、0.0005〜0.023mg/日となった。

アメリカのEPAが報告している発がんslope factor(スロープファクター)を基にして、皮膚がんリスクを計算すると、10万人に24人が皮膚がんになる計算だった。

参照:Cancer risk to Japanese population from the consumption of inorganic arsenic in cooked hijiki. 2008年 北里大学

4、考察

ヒ素について、普段あんまり意識したことが正直ありませんでした。 今回調べてみて感じたことは、実際の摂取量で十分リスクが考えられるんだということです。

「ひじきを頻繁に食べている人」、「地下水の水を使用している人」など人によって摂取量の幅はおそらく広いのですが、言えることは「日本人は他の国と比べてヒ素のリスクを考えるべき」ということです。

(もみのき)

(2012/07/30 掲載)