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昭和電工のトリプトファン事件について

名古屋生活クラブの考え

昭和電工のトリプトファン事件について

トリプトファン事件とは、昭和電工が遺伝子組み替えで作った、トリプトファン(アミノ酸の1つ)の中に不純物が含まれており、それにより、38人の死者も含む、何千人もの被害者を(アメリカを中心に)出した事件です。

事故の原因の究明が被害者の中心、アメリカと、会社のある日本でなされてますが、決定的な事は、昭和電工が設備、菌などを破棄したこともあり、わかっていません。しかし、調査のなかでおぼろげながらにわかってきた事は、昭和電工のトリプトファンは60種類もの不純物を含み、その中の、エチレンビストリプトファン(EBT)フェニルアミノアラニン(PAA)の毒性がとくに疑われています。

H9年度の厚生省の事故調査報告書では、次のように記述されています。

 

「EMS(トリプトファンによる病気)は、トリプトファンを大量摂取した患者において、その際含まれていた一定の不純物(EBT,PAA等)が患者のもつ特異的な免疫、代謝系異常の引き金を引き、生じたとする考え方が一般的で・・・中略・・・明確な原因と発生機序は、EMSの動物モデルが開発されていない事もあり、未だ不明である」

 

少し解説します。

トリプトファンによるEMS(好酸球増加、筋肉痛症候群)発病は、摂取した人、すべてに起きているわけでなく、個人差が大きい事(オレゴン州やミネソタ州では2%もの人がトリプトファンを飲んでいました)又、EMSを動物に起こす−(同じ症状の動物を作る)−ことに成功していません。EBTが近い症例をラットに起こすという論文も出てきましたが、すべての症状を示しているわけでもありません。要するに、人間に特有の発病をしているのです。ラットやマウスには起こすのに難しく、人でも個人差がある、という病気です。副作用を動物を使って、毒性の調査をする事の難しさが現われた事件です。

このような事故を防ぐには、どうしたらよいでしょうか?

 

  • @精製をきちんとする。
  • A製品の毒性検査をする。

の2点です。昭和電工は、@はいいかげんでしたが、Aはしていました。

毒性検査の結果、毒性を検出できていなかったのです。

厚生省の調査で、その研究班も、実際に精製をしています。

そこでわかった事は、EBTは精製すれば、減っていくがPPAは、ある濃度以下には減らない、というものでした。又、実際の製品での濃度も、0.01%と随分、低い濃度で発病を起こしています。厚生省の報告書では、

「事故品、トリプトファン製品中に特異的に含まれる不純物のうち、主なものは、エチレンビストリプトファン(EBT)およびフェニルアミノアラニン(PPA)である。これらの不純物の実際の存在量は100−200PPM[0.01−0.02%]のレベルであり、通常の品質管理では、ほとんど問題にされない程度の濃度であるので、通常の品質規格の整備によって、このような危害を予知し、未然防止することは、極めて困難といわざるを得ず、新開発食品が市場に出る時の安全性の評価法の考え方に大きな問題を提起している。」

と、問題提起に終わっているだけです。この事件を調査しているアメリカ、メイヨークリニックのグライク博士は、人間のボランティアで毒性を調べろ、をいう提言をしています。

合成して、精製して、とかくと不純物の存在を忘れがちになってしまいますが、現在の食品工業が生み出す製品のほとんどには、不純物が含まれています。トリプトファン事件をいい反省材料にして、この様な事故防ぐシステムの確立と、食品工業のもつ潜在的なリスクを広めていきたいと思っています。

追記

EBTは、トリプトファン2分子とアセトアルテヒドから、酸性条件で簡単に生成することがわかりました。PAAについては、よくわかっていません。

遺伝子組み替えの直接結果なのか、精製の時に生成したのかという議論もありますが、遺伝子組み替えの潜在的危険性が表われた事件であり、「実質的同等」がくずれていることを、よく示している事件です。トリプトファンはトリプトファンでなく、他のものができてしまっているからです。とにかく、食品工業の新開発食品には、遺伝子組み替えであろうとなかろうと、危険性が潜在しています。