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生活排水から琵琶湖へ流れ込む微量化学物質
◆ 論文で紹介します(翻訳:伊澤) ◆
生活排水から琵琶湖へ流れ込む微量化学物質―蛍光増白剤の研究報告―
早川和秀・山路修久(1)・高田秀重(1)・山元博貴(2)・藤原学(2)
(2)龍谷大学理工学部・ (1)東京農工大学農学部 琵琶湖研究所所報

はじめに

ダイオキシン類、内分泌攪乱物質のような化学物質は、環境中に放出されても生物代謝による変質、分解を受けにくいため、長期にわたって環境中に蓄積する。それは、微量であっても人の健康や生態系へ影響を及ぼす理由の一つとなっている。このような難分解性の化学物質は、ダイオキシン類や内分泌攪乱物質に限らず、私たちの身のまわりにたくさん存在していることは意外に知られていない。化学物質は私たちの生活をより豊かで快適なものにしてくれているが、一方で化学物質は私たちが知らないうちに環境中へ放出され、知らないところで人の健康や生態系に有害な作用を及ぼしているかもしれない。それを防ぐためにも私たちは人工化学物質の環境中への放出をより注意深く見ていく必要がある。

琵琶湖では 洗剤成分や農薬などが湖へ流入していることがわかっている。それらは人体に影響が ある濃度ではなく、これまであまり問題視されてこなかった。そのため、それらの化学物質が集水 域からどのように流入し、湖内でどのように輸送され、湖底へ蓄積するのか、分解消失するのか、 湖外へ排出されるかなど、化学物質の挙動についての情報はこれまでほとんどなかった。  そこで、琵琶湖及びその集水域で生活排水に由来する化学物質の挙動についての調査研究を行い 、生活排水に含まれる化学物質の代表である洗剤成分、中でも蛍光増白剤に注目して研究を実施し た。


蛍光増白剤

布類を白く鮮やかに見せる為に使用する染料の一つ。衣料用合成洗剤、衣類、紙、プ ラスチックなどに添加されている。皮膚刺激やアレルギー反応を引き起こす化学物質とされるが、 人体への内分泌攪乱作用は現在までには報告がなく、通常の使用では人体への影響はないといわれ ている。しかし、原料であるスチルベンは内分泌攪乱作用があり、食品衛生法では、食器・紙ナプ キンなどへの蛍光増白剤の使用が禁止されている。また、水溶性が高く、環境中で微生物に代謝分 解されにくく、下水処理場でも完全に除去できないことが明らかとなっている。大阪市立大学の研 究では、蛍光増白剤の分解物が尿中に検出され、弱いながらも突然変異を誘発した。過去の研究例 では河川、湖沼、海洋で検出が報告されている。


研究の結果

 生活廃水中の洗剤成分が低濃度ながら琵琶湖湖底まで到達していることが明らかにな った。それは生活排水に含まれる難分解性の人工化学物質が琵琶湖に拡散している可能性を示して いる。現在、琵琶湖ではそのような化学物質が人体や生態系へ直接影響を及ぼしている例は報告さ れていないが、科学の進歩により今後どのような弊害が報告されるかはわからない。これまでの化 学物質の毒性試験は既存の急性毒性試験が中心であり、今後、内分泌攪乱作用の試験が分解産物も 含めて広く行われるようになると、新たな毒性の発現機構が明らかになる可能性がある。それによ っては本研究で扱った蛍光増白剤を含め、これまでは危険性の少なかった化学物質が危険なものと 認識される可能性がある。

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