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夏野菜と農薬
◆ 論文で紹介します(翻訳:樅木) ◆
Effects of 3-Metyl-4-nitrophenol on the Suppression of Adenocortical Function in Immature Male Rats
幼若雄性ラットの副腎皮質機能の抑制に対する3−メチル−4−ニトロフェノールの作用
ChunMei Li,Shinji Taneda,Akira K.Suzuki,Chie Furuta,Gen Watanabe,Kazuyoshi Taka
Received July 6,2007;accepted September 25,2007;published online September 28,2007

夏場よく食べる果菜は一般にどのくらいの農薬使用回数なのでしょうか?
長崎県が平成19年8月に出した農薬使用回数(成分回数)の慣行レベルの一例をご紹介します。



果菜データ

その中でフェニトロチオン(スミチオン)という殺虫剤に関する論文をここでご紹介します。

ディーゼル排気微粒子(DEP)から分離した3-メチル-4-ニトロフェノール(PNMC)はエストロゲン活性、抗アンドロゲン活性(内分泌かく乱作用)を持つことが知られており、また、PNMCは殺虫剤であるフェニトロチオンの分解物でもあります。フェニトロチオンは世界的に有機リン系殺虫剤として使用されている農薬です。
Pollutant Release and Transfer Registersによるデータでは、2002年日本において環境中に排出されたフェニトロチオン量はおよそ1300トンであり、その約半分がPNMCに分解されていると示しています。
この論文では、幼若雄性ラットの副腎皮質機能の抑制に対するPNMCの影響について調べています。


方法

28日齢の雄ラットに1,10,100mg/kg/日のPNMCを5日間連日注射。血液サンプルを採取し、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、プロゲステロン(黄体ホルモン)、コルチコステロン(副腎皮質ホルモンの1種)の3つのホルモン濃度を測定。


結果

 1. ACTH 濃度は、対照区に比べ100mg/kgPNMC処理区で有意に高かった
  2. コルチコステロン濃度は、対照区に比べ全てのPNMC処理区で有意に低かった
  3. プロゲステロン濃度は、対照区に比べ10,100mg/kgPNMC処理区で有意に低かった

考察

フェニトロチオンは稲作・野菜・果物の殺虫剤としてだけでなく、シロアリ防除剤としても使用され、その毒性は変異原性・催奇形性も認められている怖い農薬です。

今回の論文ではPNMCはコルチコステロンとプロゲステロン生産を抑制することが分かりました。
コルチコステロンは血糖値の調節に関わる副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドの1種(ヒトではコルチゾールが有名)で、プロゲステロンは黄体ホルモン(女性ホルモン)ですが、体温調節・血糖値調節にも関連しているホルモンです。

多くのホルモンと自律神経の働きは我々の体の恒常性を保っています。現代人のホルモンバランスを崩しているのは農薬やその他の化学物質も原因の1つなのではないでしょうか。
また、ディーゼルやフェニトロチオンの分解産物PNMCは難分解性で、我々は空気、食べ物、肌を介して摂取しており、様々な生物に深刻な影響を及ぼすことが示唆されています。

ある日本のパイン畑にフェニトロチオンをヘリコプター散布した時の大気中最高平均濃度6.5μg/m3という値を、1日の60kgの一般成人(1日に吸入する呼気量15m3とすると)のPNMC吸入量に換算すると48.8μgになります。これを体重1kg当りにすると0.0008mg/kgです。今回の実験濃度にはほど遠い濃度ですが、摂取経路は大気中だけではないこと、大気中のPNMC濃度がはっきりと分かっていないことから、人が実際に摂取しているPNMC量は不明確です。

また、前述したフェニトロチオン放出量1300トンと、ある年の日本におけるDEPの放出量59000トンから、DEPおよびフェニトロチオンによるPNMCの年間放出量は2300トンと計算できました(算出:樅木)。
このように、フェニトロチオンの分解物であるPNMCは意外にも身近な存在だったのです。

(翻訳・文責:樅木)

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