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自然放射線とヒトミトコンドリア遺伝子の突然変異

◆ 論文で紹介します(翻訳:伊澤) ◆

Natural radioactivity and human mitochondrial DNA mutations
自然放射線とヒトミトコンドリア遺伝子の突然変異

Lucy Forster ミュンスター大学 ドイツ
PNAS October 15, 2002 Vol.99 no.21

自然放射線は土地によって変動する。すべての生物は進化の最初から照射され続けてきている。染色体の傷害とガンがよく知られている放射線の影響です。最新の研究は、照射のDNA(遺伝子)配列への影響が中心になっており、照射を受けたマウスのDNAの繰り返し配列が何世代にもわたって不安定化していることが明らかになった。その様な発見は、放射線作業者や、広島・長崎や、チェルノブイリの被曝者の現在及び子孫にとくに重大な意味あいがある。

インドのケララ州の海岸地域には、世界で最も高い自然放射能の場所があり、多くの人が生活している。その放射線は、10%までのリン酸トリウムを含んだモナザイトという鉱石から生じている。その地域には、数千人の人が漁業を営んでいる。その人達の受ける放射線は、10〜12ミリシーベルト/年という値で、世界平均の10倍以上である(訳注.世界平均は、2.4ミリシーベルト/年なので単純に計算すると、4倍から5倍。日本人の場合、医療被曝も含めると3.8ミリシーベルト/年なので2.6倍〜3.2倍)。ケララ州のラットの形態、ダウン症の発症率、染色体異常、先天性奇型の研究では、放射線による異常を決定的に明らかにすることはできていないが、直接DNAの配列を決定して(突然変異を調べる研究)は、ケララはじめ世界のどこでも行われていない。今回の研究では、高レベルの自然放射線の生涯にわたっての曝露がミトコンドリアDNA配列の変化にどう影響しているのかを248家族、計988人のケララの人を分析した。ミトコンドリアDNAは、母親から遺伝するので家系内で追跡できる。1つの細胞に数千個も含まれており、分析しやすい利点がある。

結果

私達は高線量地域から180家族730人、それに近接している低線量地域から68家族258人(合わせて248家族988人)のミトコンドリアDNAを抽出、分析した。高線量地域に住む家族は、統計的に有意に(P<0.01)生殖細胞由来の点突然変異が高かった。驚くことに、放射線は、進化的に突然変異が多く報告されているDNAの部分に多くの突然変異がより多く起こっていた。高線量地域の595伝達(母から子へ)の内22の突然変異を、低線量地域の200伝達の内1個の突然変異を検出した。

解説

20ミリシーベルトまでなら、100ミリシーベルトまでなら安全と、放射線の専門家がテレビ、新聞などで力説しています。その根拠として「自然放射線が高い所でも何ら影響がみられていない」と一方的なことを断定しています。が、事実はかなり違っている様です。IARC(国際ガン研究機関)のエリザベス・カーディスさんが、J. Radiol Prot, 29 (2009) A29-A42. でまとめていますが、ラドンによる肺ガンのリスク上昇がほとんど確実なことや、そもそもこれらの高線量地域に住んでいる人が少なかったり、ガンの統計がととのってなかったり、疫学としてはっきりとした事がいえる条件がととのっていないといった方が良いのです。今回の論文では、突然変異を遺伝子DNAまで直接さかのぼって配列を決定することで、突然変異を検出するものです。母のミトコンドリアDNAの配列と子供のミトコンドリアDNAの配列を直接比べることで突然変異があったことが検出できます。高線量地域では、母から子供、595の伝達の内、22個の突然変異を検出したのに対し、低線量地域では、母から子供200の伝達の内、たった1個の突然変異しか検出できなかったのです。

放射線の影響は、

   DNAの突然変異 → 染色体異常 → ガンなどの病気

の順に起こります。ガンだけ調べていても、タバコの影響もあり、簡単に分かることではないのです。でも確実に突然変異が増えているのなら、当然のごとく、ガンが増えていることは予測されます。今回のインドケララ州の線量は、10〜12ミリシーベルトという値です。今、学校の運動場の放射能の規制値は20ミリシーベルトです。専門家の中には、100ミリシーベルトまで安全だといっている人も多いです。分かったつもりになって原発を推進し、分かったつもりになって低線量なら安全だと言う。もっと科学者は謙虚になるべきではないでしょうか。(伊澤)

トリウム Thとは?
α崩壊(α線を放出して他の物質に変わる)により、体内被曝の最大要因であるラドンなどの放射性元素(ガスになり空気中に拡散する)に変わっていく。

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