除草剤CNPのもたらす脅威

※参考文献:農薬毒性の辞典 第3版

■ 除草剤CNPが胆のうがんを引き起こしていた

CNP(クロルニトロフェン)はジフェニルエーテル系の薬剤で、水田初期の除草剤として適用されていました。93年に新潟大学の研究者グループが、胆のうがんの原因を探っていったところ、水田で使用されている除草剤CNPが原因であるという研究発表をしました。

■ 除草剤は我々の生活用水を汚染する

国内で胆のうがんによる標準化死亡比が最も高い新潟県では、ダムや地下水を水源としている上越地区では水道水の農薬汚染は少ないのですが、水田地帯を流れる阿賀野川、信濃川等を水道水の水源とする下越地区では水道水にCNPが最高554ppt検出(92年5月、新潟市)されました。

■ 川へ流れ出たCNPの脅威は生活用水だけではない

このCNPは河川へ流入して、全国各地の水系を汚染しました。仙台市内の河川水中のCNP濃度は8.3ppb、琵琶湖に流入する河川水中では最も高いところで2.23ppb検出されました。また長野県では83年に井戸水から1048pptのCNPを検出しています。そして、これらの汚染された中で生きている魚介類には、水中濃度の1000から2000倍のCNPが生物濃縮されていることが明らかになっています。滋賀県立衛生環境センターが実施したCNP-アミノ体の生物濃縮試験では、コイの筋肉部で90倍、肝臓で402倍、腎臓で501倍、胆のうで5368倍の濃縮率となっていました。他にも、東京湾で採取されたスズキに30%の検出率で0.1〜3.0ppb、東京都中央市場に入荷した17種の魚介類でも30%の検出率で0.1〜4.0ppb(マイワシ)検出されました。

■ 消費者運動によりCNPはメーカーの製造販売自粛に繋がった

CNP中に不純物のダイオキシン類が含まれていることが判明したのをきっかけに、82〜83年にかけて各地でCNPの第一次追放運動が起こりました。そして、93年にはCNPと胆のうがんの因果関係を示す研究報告を契機に、第二次追放運動が起こり、94年3月にメーカーによる製造販売自粛に繋がりました。

この94年3月まで、厚生省の残留農薬安全性評価委員会はADI(一日摂取許容量)を0.002mg/kg体重/日としていました。ADIが設定されたということは、安全性評価委員会によってADI以下の摂取であれば安全であると判断していたということになりますが、このADIが設定された経緯、つまり安全性評価委員会に提出されたCNPの毒性試験データやその評価過程は依然としてベールに包まれたままだそうです。

■ 発がん性のある農薬CNPが国の登録を受けていた

このCNP、除草剤としての効果はあったのでしょう。しかし胆のうがんという副作用があり、メーカーの販売自粛というお粗末な結末を迎えるまで、人的被害が起きなければ止められないという事実も悲しい現実だと思います。人工的に合成された農薬を自然界で使用すれば、予想だにしない影響が後になって判明することがあっても不思議ではなく、その影響が把握できた頃には、時すでに遅しといった状況かもしれません。水に恵まれた日本、現在だけでなくこの先にも開発され続ける合成農薬が水を媒介にあらゆる方面に渡りつき、どのような破壊をもたらすのか、私たちはその意味をもっと考える必要があるのではないでしょうか。(木)

2011年4月3週