海苔の酸処理のなにが問題か

酸処理していないこと、すなわち「非酸処理」を売りにしている海苔があります。

しかし、「非酸処理=安全」というイメージで売るのはいかがなものかと、わたしはかねてから疑問に思ってきました。結論を言えば、酸処理と非酸処理のちがいは基本的に摘み取り時期のちがいにすぎません。海苔の生産サイクルをかいつまんで説明します。次のような流れです。

10月中旬、種付けした海苔網を張る → 11月末に初収穫、これが秋芽一番摘み、酸処理は不要 → 以後3月末まで、基本的に同じ網から何度も摘採する(だいたい5番摘みまで)。

網を張り替えるのは手がかかる※1、一度張った網はなるたけ長く使いたい、でもアオサなどの雑藻が付着したり病気も出やすい、品質が落ちれば買い叩かれる※2、品質と収量がそこそこ安定していれば買い手はつく、そこで酸処理が多用されるのです。酸処理とは、海苔網をクエン酸やリンゴ酸の希釈液にくぐらせて病害を予防すること。酸処理された海苔の安全性に問題ないと考えられます。有明海の環境に与えるダメージについてははっきりしません※3

問題なのは、そこそこの品質の海苔=「黒くて四角い海苔」を大量生産するという思想。ここには、旨いのりを消費者に食べてもらいたいという意欲が欠けています。海苔漁師の生活を考えると酸処理は全否定できないけれど、そうした意味で問題があると考えています。だから逆に、収量が落ちても、旨いのりをつくって消費者に喜んでもらおうと、漁協が一丸となってがんばっている皿垣の海苔がわたしは大好きなのです。(杉原)


  • ※1 収量が落ちたり病害が出た海苔網を、種付けし発芽した後に冷凍保存した網(冷凍網)と張り替えることはあります。
  • ※2 アオサが混じった海苔はアオトビといって安い。
  • ※3 酸処理うんぬん以前に、海苔網を沿岸部だけでなく比較的沖合いまで高い密度で設置することの方が、有明の環境に良くないと思います。具体的には、希少な栄養塩をめぐって海苔と植物プランクトン(藻類)の競合が激化、より上位の生態系のバランスがくずれ、魚貝の水揚げが減少しているのではないかと考えられる。

(2011年5月3週)